海兵たちの下着として生まれたTシャツがさまざまな付加価値とともに進化した

アンダーウェアとして、ユニフォームとして、オシャレ着として。今や私たちの生活には欠かすことのできない洋服、Tシャツ。その起源は、第一次世界大戦中のアメリカ海軍船内にて、船員たちの“下着”として採用されたこ とから始まると言われています。

それまで、分厚いウールの制服に身を包んでいた彼らにとって、軽くて動きやすく、洗濯してもすぐに乾くTシャツは、まさに画期的なものでした。船員たちは必然的に、重いウールの制服を脱ぎ捨て、Tシャツ姿で業務に勤 しむようになりました。そして、退役し陸に上がった後も、彼らはTシャツを纏い街中を闊歩したのです。言うま でもなく街の人々は、戦火のヒーローたる彼らのそのスタイルに驚愕し、歓喜し、羨望しました。そして1930年 頃、当時の大手下着メーカーが、世界初の一般ユーザー向けTシャツを、“コブ・シャツ”(=水兵シャツ)と名付 けて販売したのです。

時は流れ、第二次世界大戦後の1950年中頃。当時まだ下着としての認識が強かったTシャツを、復員学生 や労働者たちは、アウターとして着用しました。それは、ジーンズとともにブルーワーカーズたちの象徴とな り、ある種のムーブメントを生み出すのです。そして時代は、2人のカリスマを作り上げます。そう、ジェームス・ ディーンとマーロン・ブランドの2人です。彼らが銀幕の中で見せたTシャツ&ジーンズという姿は、瞬く間に全 米各地に飛び火し、既存の価値観へ反抗し挑戦する若者たちのシンボルと捉えられたのです。

そうして一躍市民権を得たTシャツは、1960年代に入ると、また新たなステージを迎えます。それは、時に企 業のロゴなどをプリントした広告メディアであり、時にアイデンティティを主張するキャンバスであり、“単なる洋 服”としての価値を超越した、コミュニケーションツールとしての姿でした。さらには、愛と平和を叫ぶヒッピー カルチャーや、反体制のロック/パンクシーン、当時の最先端現代アートであったポップアートなど、さまざま なカウンターカルチャーの象徴として、キャンバスとして、一般層からマイノリティに至るまで、幅広く浸透してい くのです。

その後、ファッションアイテムのスタンダードして確固たる地位を確立したTシャツは、1998年、さらに新たな 局面を迎えます。PCを使い、自分でTシャツをデザインすることのできるキットが開発されたからです。3000 種類の既存のデザインと2万種類もの画像転写シートをセットにした、プロ顔負けのTシャツが作成できるこの キットは、一般ユーザーの心を見事に掴みました。その瞬間、かつて海兵たちの下着として生まれ、50年代に は反骨精神の象徴として受け入れられ、いつしかコミュニケーションツールにまで進化してきたTシャツに、ま たひとつ新たな概念が生まれたのです。それは、『消費者自らがデザインする』という、いわば“オリジナルメイ ド”の概念でした。

そして現在。今やTシャツは、音楽フェスや映画などの商業的なプロモーション媒体から、大学や高校の文化祭 などにおけるプライベートなユニフォームまで、営利非営利を問わずして、大小さまざまなコミュニティーにおけ る、オリジナルメイドの洋服としても認識されるようになったのです。

常にシンプルでカジュアル、それでいて主張性も強く、メッセージやオリジナルデザインを描き出す“キャンバ ス”でもあり続けるオリジナルTシャツ。これからもその存在は自由の象徴であり、あらゆる“オリジナルメイドウェア”の原 点として愛され続けていくことでしょう。

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